#法テラス #国選弁護業務 #被疑者弁護の歴史
まえの記事で、
法テラスは、法律扶助協会を廃止して設立した。
と書いた。
ここに疑問を抱いた方は、何人居ただろうか?
同じ民事扶助事業を行うなら、その規模を拡大したいなら、法律扶助協会への補助金を増やせば良い。
なぜ、別組織にする必要があったのか?
法律扶助協会は補助金を受けていると言っても、本来は、日弁連が設立した民間の財団法人だ。
他方、法テラスは総合法律支援法に基づいて設立された独立行政法人に準じた法人だ。より国の支配が強い。
民事扶助事業を国が支配したかったからか。
否。
そんな面倒な事業、わざわざ引き取りたいと思ったりしない。
他方で、多くの補助金を提供するからには、強く支配したいと思うのは当然であろう。
それは否定できないが、法テラス(日本司法支援センター)という法人を設立したかった真の目的は別にある。
国選弁護業務を担う法人が必要だったからだ。
総合法律支援法は平成16年法律第74号である。
平成16年に成立した74番目の法律ってことだね。
この平成16年に、刑事司法改革関連で、2つの大きな法律が成立したのをご記憶だろうか。
平成16年法律第62号/平成16年法律第63号
の2つである。連番であり同日に可決された。
法律番号だけ言われても、何のことだか分かんないよ~!
そりゃそうだ。では、教えよう。
第62号 刑事訴訟法等の一部を改正する法律
第63号 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律
である。
裁判員法は、ここで改めて説明するまでもなく、どんな法律か、想像が付くであろう。だから省略。
刑事訴訟法の一部を改正する法律と言われても、刑事訴訟法は507条まである大法典である。枝番(第37条の2など)まで数えるともっと増える。
その一部を改正する。って、どこを改正したんだ?
大雑把に言って
①公判前整理手続きの創設(裁判員法に連動)
②即決裁判手続きの創設
③被疑者国選弁護制度の導入 などだ。
若い人たちは信じられないかも知れないが、
平成16年の刑訴法改正前は、国選弁護制度は被告人にしかなかった。
被疑者には国選弁護人が付くことはなかった。
つまり、被疑者に認められるのは、私選弁護人だけだったのだ。
経済的に恵まれない被疑者には、弁護人の援助を受ける権利が、実質上保障されていなかった、と言って良いだろう。
弁護士会は、当番弁護士制度(初回接見は無料)、被疑者弁護援助制度(貧困者に弁護人費用を援助する)を作って、経済的に恵まれない被疑者にも、弁護人の援助を受ける権利の実質的保障をし、国が、同じ制度を国費で実施することを念じていた。
一方、国は「事前調整型の社会から、事後解決型の社会への移行」を政策の大きな柱とし、「行政の聖域なき改革(一律縮小)」と「司法制度の総合的な見直し」を行った。
その一環として、内閣に設置された「司法制度改革審議会」(1999年7月27日から2001年7月26日)において「司法制度の総合的な見直し」について議論し、審議会の最終意見書(通称「意見書」)が2001年6月12日付けで公表された。意見書を公表した時点で審議会の仕事は終了したんだけど、審議会が解散したのは7月26日
「意見書」は閣議決定され、国(行政府。法務省、検察庁を含む)の正式な政策となった。これに合わせ、最高裁(司法府)と日弁連(単なる民間団体)も、「意見書」を実現するための、それぞれの行動目標を定め公表した。
「意見書」は「表紙」が0ページで、「はじめに」から「おわりに」まで118ページに及ぶ大部である。
そのp30には「民事法律扶助制度については・・・一層充実させるべきである。」と記載され、
p46~48には「2. 被疑者・被告人の公的弁護制度の整備」の項目が設けられ、その中に「 被疑者に対する公的弁護制度を導入し、被疑者段階と被告人段階とを通じ一貫した弁護体制を整備すべきである。 」と明記され、被疑者段階にも国選弁護制度を導入することが、正式に国の政策となったのである。(この時点では、国選弁護にするか、私選弁護に補助金を出すかは、未確定であったが)
我が国は法治国家であるから、行政府の政策を実施するには、裏付けとなる「法律」と「予算」が必要であり、それを決めるのは立法府(国会)である。
「民事法律扶助制度については・・・一層充実させるべきである。」に関しては「総合法律支援法」が制定された。
「2. 被疑者・被告人の公的弁護制度の整備」については、主に刑事訴訟法と少年法が改正された(法律第62号)。
ちょっと、横道に・・・
法律には、内閣が法案を国会に提出する「閣法」と、議員個人(またはそのグループ)が提出する議員立法がある。
上記の法律は両方とも「閣法」である。つまり、行政に属する役人が法律案を作成し、「内閣法制局」の審査を受けた上で、閣議決定し、国会に提出される。
法律案を作成するのは法務省。と思うかも知れないが、さにあらず。
例えば「種苗法」。これは農水省の役人が法律案を作成する。つまり、それぞれの省庁が、それぞれ所轄の法律案を作成するのだ。
では、司法改革関係の法案を作成するのは、どの省庁か?言い換えれば、司法改革の所管省庁はどこなのか?
ここでは、やはり法務省の出番なのか?
司法制度を支えているのは、裁判所、検察庁、弁護士会。この三権分立だ。検察庁を抱えている法務省は、当事者過ぎて、三権分立から見て適任とは言えない。
そこで、法務省ではなく、内閣に「司法制度改革推進本部」を置き、その「事務局」が法案作成に当たった。
司法制度改革は「意見書」が118ページもあり、課題は広範に及ぶ。そこで事務局を7つの部会に分け、それそれ外部識者を招いた検討会を置き法案内容を検討した。
「意見書」で政策の大枠を決めたが、「検討会」で大枠から具体的な詳細に落とし込む作業をする。最終的に「法文」を書くのは「事務局」の「役人」だ。
検討会には、学者枠、裁判所枠、検察庁枠、弁護士会枠があり、計11人で徹底した議論を交わした。
その議論の結果をとりまとめて「法文」にするのが「事務局」なのだが、事務局も、行政からの出向、裁判所からの出向、弁護士会からの任期付き公務員で構成されていた。
出向元の行政は、やはり法務省(検察庁)が多かったが、例えば労働法関係の改正を担当する部局には、厚労省からの出向が来ていた。弁護士会からの「出向」は、ブログ主を含め4人しか居なかった。圧倒的に少なかった。
検討会の開催や、法文作成には、あんなことや、そんなことがあったのだが、守秘義務で書けない。あしからず。
さあ、横道から本論に戻ろう。
被疑者国選弁護制度は、ホップ、ステップ、ジャンプの3段階を経て、被疑者国選弁護の対象となる事件(罪名)を拡大し、現在の全件対象に至っている。
第1段階(ホップ)対象事件は「法定刑が死刑又は無期若しくは長期3年を越える懲役若しくは禁錮に当たる事件」に限られていた。
全体に占める比率にすると、約8%だったかな。この記憶に自信はない。司法統計年報を調べたが、なかなか出てこなかったので諦めた。
第2段階(ステップ)対象事件は「死刑又は無期若しくは長期三年を超える懲役若しくは禁錮にあたる事件」に拡大された。この事件は、刑訴法第289条に規定する事件に合致する。
そのため「必要的弁護事件に拡大された」との表現が多発したが、必要的弁護事件は、289条以外にも多々あるので、不正確な表現である。ブログ主は「いわゆる必要的弁護事件」と呼ぶことに、拘ってきた。
以上の2段階は、法律第62号によって定められた。
同法の付則により、施行日は政令に委ねられ、ホップは平成18年5月、ステップは平成21年10月とされた。
法律の成立から、ホップまで2年半、ステップまで更に2年半の準備期間が設けられたのである。
仮アップ
実際の件数も限定されていた。被疑者には国選弁護人が付くことはなく、起訴されて初めて国選弁護人の援助を受けることが可能になる。
平成16年の刑訴法改正により初めて「被疑者国選弁護制度」が認められ、被疑者段階から弁護人の援助を受けられるようになったのである。
改正法は16年に成立したが、国民に周知徹底し(これは重要ではない)、弁護士会が「被疑者に速やかに弁護人を用意する態勢を整備する」ための準備期間が置かれた。