弁護士迫まり子の遺言ファイル1 #法律監修の法律監修

2時間ドラマの法律監修の法律監修
弁護士迫まり子の遺言ファイル1(法律監修:村上愛三)
 
主演の斉藤慶子の若い頃のウエストの細さが好きだったので鑑賞することに。
 
タイトルにあるとおりメインテーマは遺言。
まず基礎知識。「遺言」の読み方。
普通の人は「ゆいごん」と読むが、法律家は「いごん」と読んで、偉そうにして「ゆいごん」と読む庶民を馬鹿にしている。
と批判されることがあるが、「ゆいごん」と読む人を蔑む法律家がいたら、その人を蔑んでください。
法律上「いごん」「ゆいごん」どちらも正解です。
法律家は「いごん」と読むことが多いですが「ゆいごん」と読んでも法律上、誤りではありません。
 
遺言を書くもの(to write on)ですが、通常は紙ですが、木の板でも、煉瓦でも、タオルでも法律上の制限はありません。
でも、普通は紙ですよね。
 
遺言が書かれた紙をなんと呼ぶか。
「遺言書」「遺言状」などが想起されますが、実は、どちらも法律用語ではありません。厳密に言うと「民法」に「遺言書」「遺言状」という言葉は存在しません。
一般人が、どちらの用語を使うか、調査したことはありませんが、ボクの印象では、五分五分といったところでしょうか。
法律家は、ほとんど「遺言書」と呼ぶと思います。
 
民法に定められた正式な名称は「証書遺言」です。聞き慣れませんね。弁護士でも「証書遺言」と正式に呼ぶ人は少数でしょう。まだ「遺言証書」の方が馴染みやすいでしょうか。
公証役場で作成すると、タイトルの書かれた表紙を付けてくれますが、「遺言証書」に近いでしょうか。

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このドラマを見ていて、気になったのは、遺言作成を専門分野とする(しようとしている)迫まり子弁護士はじめ、同じ法律事務所の他の弁護士も、依頼者などの一般人登場人物も、全員が「遺言状」と呼んでいた点です。

法律家としては、かなり、耳障りでした。

法律的な誤りではないので、厳密な意味での法律監修ミスではないのです。

 

さて、ドラマの内容を吟味しましょう。 

 

依頼者細川俊之の依頼した遺言は、とても複雑で難しいモノでした。とても難しいので報酬は1000万円。依頼者から申し出た金額です。

迫まり子弁護士が所属する迫法律事務所は、まり子の母が所長、他の2人の所属弁護士はまり子の妹という、迫✕4の迫だらけの事務所。まり子が遺言専門弁護士になりたいと言ったら、妹たちは、需要がない、単価が安い。と批判しました。
妹その1「遺言状の作成費用なんて、遺産総額の0.3%。30万円がいいところよ。」
それが本当かどうか。弁護士費用は天から降ってくるものでは無く、法律事務所が報酬規定を作り、それを参考にしつつ弁護士と依頼者の協議で決めるものです。参考に(すでに廃止されてしまったが)日弁連報酬基準規程を見てみましょう。
遺言書作成の手数料
定型的な遺言書・・・10万円から20万円の範囲内の額
非定型な遺言書・・・(遺産総額が3000万円から1億円の場合)遺産総額の0.3%プラス38万円
定型的な遺言書だと30万円にも届かない。
非定型だと0.3%に38万円の上乗せが付く。
いずれにしても、妹その1は、間違っている。
 
まあ、それは本質論ではない。
2時間ドラマですから、スッタモンダがあります。そして、結果、とっても難しい課題をCLEARし、依頼者の 細川俊之も納得する出来上がった遺言書は、たった1ページだけのもの。
 
迫まり子弁護士は、依頼者細川俊之に「遺言状ができあがりました」と書面を提出する。
そのタイトルは「遺言書」(遺言状じゃない)
全文ワープロで作成されていて、作成日付の欄だけ「平成十一年  月  日」と手書きされる余白が残されていた。
遺言者の住所も、そして氏名までもが、ワープロで記入されている。
ドヒャー!!
もう一回。
ドヒャー!!
 
(自筆証書遺言)
第968条
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文日付及び氏名自書し、これに印を押さなければならない。
2018年の法改正により、物件目録はワープロ文書でもOKになったが、その他の全文は「自署」しなければならない。つまり、自分の文字で書かなければならない。ワープロ不可。
これ弁護士の常識。
ましてや遺言を専門分野とする迫まり子弁護士が間違えるはずもない。
ちなみに、1999年のドラマなので、上記法改正は無関係。
これは、明白は法律監修ミスと認定することにしよう。
 
 
法律監修:村上愛東京弁護士会所属)
    • 紀尾井総合法律事務所
紀尾井総合法律事務所には、村上弁護士を含め2名の弁護士が所属していますが、別々にHPを立ち上げるなど、特殊な法律事務所のようですね。
簡単にググっただけでは、村上弁護士の得意分野などは、わかりませんでした。
 
 
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